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関野吉晴「グレートジャーニー」”縄文号とパクール号の航海”を観た

 映画館に足を運んだ。何10年ぶりかで。お金払っても観る価値のある映画だ。「今回は若者とインドネシア人漁師と手作りカヌーで大海原に挑戦。星を頼りに航海する関野さんたちの姿に手に汗を握り、拍手を送り、脱帽した」(北野武、映画監督)とチラシにある。

 探検家関野さんの企画は教え子の武蔵野美術大学の学生と砂鉄を集め、それでつくった斧で木を伐り、カヌーをつくり、インドネシアから石垣島へ、かつて祖先が辿った海路をエンジンを持たぬ船で行きつこうという旅。年齢も価値観も国籍もバラバラな11人のクルーを乗せた船は風がなければ人の足より遅く、ときに台風に阻まれ、航海は3年に及ぶ。カヌーづくりを入れれば8年のドラマ。

 圧倒的な自然のなかで翻弄されながらクルーの命がけな機転に救われ、仲間のいさかいや死を超えて石垣の港に入るまでを関野は淡々とまるで日常の暮らしのなかで家族を見守る家長のようなまなざしでくるみこむ。

 「最初は4か月で着くつもりだった。6畳と4畳半くらいの狭い船内で、10人が食事、排泄、睡眠を共にしたら、二度と顔も見たくなくなるのが普通。なのに彼らは中断を挟んだ三度の出航に全員戻ってきてくれた。航海を一言で言えば補い合いと異文化共生社会の実験場」。上映後のトークイベントでの関野さんの言葉だ。人間とはなにかをとてつもないスケールのなかで見せてもらった2時間だった。感謝。

 

[2015.04.17]